【C-6】Be the sweet-est
使用したお題(複数選択可)・・・アイス
いつもと文体、話の雰囲気などを・・・少し変えている
一言コメント・・・楽しく書けたと思います!よろしくお願いします。
備考(作品の注意事項など)・・・なし
天国獄と言う男を、四十物十四は尊敬している。
面倒見がよく、頼りがいがある。問題を解決でのための適切なアドバイスをくれる。時に厳しいこともあるが発言には常に芯が通っている。
弁護士という職業について十四は深い知識は持たないが、獄が豊富な知識を持っていること・その知識を活用して自分と似た境遇の子供たちを無償で弁護していることで獄を賢く仕事ができる、と思うには十分だと思っている。
十四が獄と“おんなじ”だけ法律を知らなくったって、友達や家族になることはできるから。
しかしながら、天国獄と言う男のこだわりは、四十物十四には理解ができていないことが多い。
好きな食べ物も嫌いな食べ物も、数多く口にするが、どれもどこか冗談のようで、どこまで本気なのか判断がつかない。
いくつか小言を言いながらも、最後には付き合ってくれることがほとんどであるから、どこまでが戯れなのかと思ったりもする。
「……十四、釣りはいらんから、オレの分のアイス買ってきてくれ」
例えば、真夏日のまっ昼間。天国法律事務所のデスクで黙々と仕事をしていたと思った獄が、いきなり5千円札を渡して十四に頼みごとをし出す意図、だとか。
「えっ?」
「お前、今どうせ暇だろうが」
「ひどいっす、暇とかじゃないっすよ。今度のライブの参考のために前のライブの動画見返してたら、次のゲーム実況が面白くって見ちゃってただけで……あっ、獄さんも見ます?面白、いったあ~!」
「それを暇つうんだよ、馬鹿ガキ」
長時間真剣に難しそうな書類の束を睨んでいたから、気づいていないと思っていた。見ていてくれて嬉しいという思いと、ちょっとした”ズル”を窘められたような気まずさで、十四は「うう」とかすかに呻く。
「オレの分……って、獄さんの分だけっすか?自分の分は……?」
「お前の分?オレに聞くな。釣りはいらんと言ってる、食べたいなら残りでお前の分を買いたきゃ買えばいい」
あっさりとした言い分は、さっぱりして男らしいともとれるが、どこかそっけないともとれる。十四がだったら、恋人相手には“一緒に二人で食べよう”と一言声をかけるだろう。自分ならそうするというだけで、獄に同じようにすることを望んでいるわけではない。
さっぱりして男らしいのが獄の魅力だとも思うし、どこかそっけなく粗雑なところが放っておけないとも思う。十四にとっては、どちらも十四が獄を“好き”である以上、さほど大差はない。
「んー……わかったっす。自分も暑くてたまんないし、ちょうどいいっすね。……獄さん、何のアイスが好きなんです?」
「……お前の好きな奴でいい」
「え、いいんすか?でも多分、自分が好きな味と獄さんの好きな味は違うっすよね」
獄とは何度か一緒にアイスやかき氷などは食べたものの、獄の味の好みは十四とは大きく違っていた。フルーツパフェの量が多くて食べきれず困っていた際に獄が手伝ってくれたことはあるが、獄が自ら選択すれば大抵は十四と異なる味が選ばれるだろう。
「……暑くてかなわんからな。味はこの際何でもいい」
獄はそれだけを口にして、わずかに目を細める。自身への視線を感じ、十四も獄の方に振り返るが、すぐさま獄の視線は手元の資料へと落とされていた。
不思議に思ったが、獄は何も言わない。気にしないことにして、十四は再度確認する。
「せめて、獄さんの嫌いな奴とかないっすか?それだけ避けるっすよ」
「だから何でもいいっての。お前が選ぶんなら、そう外れはねえだろ」獄はさらりと言いのける。
「誕生日にくれたハムも、初めて食べた味だったが、悪くなかった。今回もお前に任せる」
「ほ、……ほんとっすか!?」
食のこだわりが強い獄から唐突な賞賛を受け驚き、十四は思わずソファから転げ落ちた。確かに獄が好きそうなものを十四なりに考えた結果ではあったが、素直に嬉しい。がぜん、 やる気がわいてきた。単純な自覚はあるが、“素直ないい子”の己を十四は嫌いではない。
「……え、えへへ、そうっすか……じゃあ……へへ……自分が獄さんのために選んでくるっす!待っててくださいね!」
だらしなく頬が緩むのを抑えられないまま、十四はどこか浮ついた足取りで、道路を挟んですぐのコンビニエンスストアに向かった。
事務所に戻った十四を迎えたのは、獄の「おせえ」という一言。口こそ悪いが、怒っているわけではない。声色と表情でそう判断し、十四は「信号赤だったんすよ」と状況を説明し、アイスを一本取り出し獄に渡す。
暑さに耐えかね、十四はさっそくアイスを開封し、一口。
「うーん、美味しい~!獄さんも溶けちゃうから早めの方がいいっすよ」
獄からの答えはない。そもそもああ言われたが、獄の口に合うだろうか。期待混じりで獄の反応が知りたくなり、十四が獄の顔を覗き込んだ時だった。
十四が握っていた食べかけのアイスバーに、獄がそのまま、小さくかじりつく。
そして、自然な素振りで、そのまま。
十四の唇に、触れるだけのキスを落とした。
「……ああ、悪くはねえなな」
目を見開く。獄はさらりと感想を口にした。
「……えっ、ひ、獄さん、な、なんで自分の……」
「こっちは仕事で疲れてんだ。少しくらい貰ってもいいだろ。お前、帰るの遅いしな」
そう言うなり、獄はくるりと十四に背を向けてしまう。
「勝手に食って悪かったな」
別にそんなことはどうでもいい。獄がアイスを食べたいのならいくらだって食べさせる。十四が言いたいこととは、全く違う。
「……!……!!そ、そんなことっすか!?そうじゃなくって……あ、あんな……軽いキスだけで獄さんは満足できるんすか!?」
どうしてそんなに、素振りも見せずに、“ドキドキする”ことをするのか、ということだ。
「たあけ、オレは仕事中だ。お前と違って、どこでも盛るような年でもねえんだ。そのくらいの分別はついてる」
獄はそう当たり前のように言うが、十四からすればたまったものじゃない。いきなり不意打ちでとんでもなく可愛い我儘をされたのだから、心臓に悪すぎる。そもそも分別がついている人間がいきなりキスなんてするだろうか。
獄はやりたいようにやったからか、十四の慌て顔を面白がっているのか、やけにすっきりした顔をしているが、十四にとってはむしろ余計な妄想ばかりが刺激されて生殺しだ。十代の性欲を舐めないで欲しかった。
「だが、まあ、」
獄は上機嫌に、歌うように笑う。
「仕事にカタさえつけば、満足できなくなるかもな。どうだ、それまでにオレをその気にさせておいてみるか?」
獄からの挑戦状だと十四は思う。
この年上の男のこだわりは、十四にすべて理解できるわけではない。この先を期待しているが故の振る舞いなのか、本当にただの気まぐれなのかどうか。妄想ばかりが独り立ちして、感情が揺さぶられてしまう。
だが、それでも分かっていることもある。
きっとそれは、十四の自惚れだけではない。
自分が本気で臨めば、きっと獄はそれを無下にはしないこと。
伝えれば伝えるほど、頑張れば頑張るほど、獄は、自分のことを見てくれるということ。
それが分かれば、十四が一歩を踏み出すには、十分だ。
だから頷く。獄に言われた通りに、“それまでに”その気にできるように。
“今に見てろ”。
“絶対、その気にさせてやる“。
昂る気持ちが抑えられずに、十四は笑顔で告げた。
「もちろん、やるっす」
まずは、後ろから抱き着いて、もう一度アイスより甘いキスをするところから。
作者・・・すみさわ
いつもと変えたところ、意識したところなど(自由回答)・・・
〇―――が多いので使わなかった
〇普段一人称が多いので三人称に
〇文章を長く書きがちなので短く切るのを意識した
〇回想などの表現を””で統一
〇十四の獄の呼称を「獄さん」で統一
などですかね……前回の感想などを参考に、自分でできそうな部分は変えてみました。が、内容自体はあまり変えれてないですね。
今回の作品のお気に入りポイント(自由回答)・・・可愛くて甘い二人を書きたかったので満足しました。
獄と十四がお互い翻弄しあって、それがいい意味で互いの刺激になるような二人が好きです。
十四はばあちゃんと両親から、「素直で優しい子」って褒められて育てられていそうだなあと思います……。