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【B-4】詫びアイス

使用したお題(複数選択可)・・・アイス, 日焼け, あつい

いつもと文体、話の雰囲気などを・・・ほとんど変えていない

一言コメント・・・お題全部入りです。よろしくお願いします。

備考(作品の注意事項など)・・・なし


うなされて目を覚ますと、寝室は地獄の釜の底のようだった。まだくたばってもいないのに、釜焦げなんざ勘弁してほしい。
湿気で貼り付いた重い瞼を開く前から室内の不快指数は振り切れていた。背中には汗でTシャツがべったりとくっついているし、腰には長い手足を巻き付けた十四が、若さゆえの代謝の良さでびっしょりと汗をかいたまま、まだぐっすり夢の中だ。
陽炎のように霞む視界が、寝起きのせいか、それとも部屋の中が暑いせいか咄嗟に判断がつかずに後頭部を掻き毟った。
寝室のエアコンは自動制御で快適な湿度と温度を保っていた筈なのにどうした事か。
遮光カーテンの内側でも分かるほど、外は明るくなっている。休みとはいえ、大分寝過ごしたらしい。
「じゅうし、……おい、起きろ」
「んんぅ……」
さほど寝汚くもないはずだが、余程よく眠っているのか声掛け程度では覚醒する気配はない。むにゃむにゃと子どものように唸るだけの口元から、一筋涎が垂れてくるのを指摘しようとした次の瞬間、Tシャツに顔を擦り付けられてもうどうでも良くなった。どうせ、このまま風呂に直行だ。
「起きろ、って」
「あぅ……ひとやさ……、暑ぅ!?」
肩を揺らすように小突いてやっと、意味のある言葉が十四の口から出たかと思うと、まるで蒸し風呂のような部屋の様子に気付いたようで目を見開いた。まだ完全には覚醒していない寝起きの頭できょときょとと部屋を見渡している。
俺と違ってボクサーパンツ1枚で眠っていた十四の周りは、シーツが汗を吸ってうっすらと人型に変色している。紫色をした下着の生地もまた、まだらに色を濃くしていた。
「停電、っすか」
「……いや、エアコンだけ停まってるな」
鼻の頭にまで汗をかいている十四が、起き上がりながらなんとか振り絞った声で疑問を発する。
俺はといえば湿気った前髪を煩わしそうに掻き上げ、手にしたエアコンのリモコンを弄ってみるが、うんともすんとも言わなくなっていた。
それを制御しているスマートスピーカーは問題なく作動するので、今一番必要としている家電だけが故障の憂き目にあっているらしい。
なんでよりにもよってこんな真夏日に。
一日家でゆっくりとする筈だったが、どうしたら1番快適な状態で過ごせるか、にプランを変更する為に寝起きの頭を働かせる。どうせ出掛けるならば、車を出して少し離れた喫茶店まで足を伸ばそうか。そういえば、コーヒー豆もそろそろ買い足さなければ。
「あー、畜生……とりあえず、シャワー浴びてモーニング行くか。その間に修理屋に連絡して……」
「……ひとやさん、」
「なんだ、……ッひぃ!?」
思考が自室から喫茶店へと飛びかけたその時、背後から聞こえた声に応じた途端、ぬるりと項を這う感触に思わず悲鳴を上げた。
「ん、甘い……」
「な、ッにしてんだ、このバカ!」
「昨日夢中で気が付かなかったっすけど、ここ、日焼けしてる……」
振り返り様の動揺した声も罵声も耳に入らないのか、普段よりも間延びした声がどこか恍惚と呟く。甘いわけがあるか、こっちだってしこたま汗をかいてる。
襟に隠れきれずに焼けた肌と元々の色の白さの境を再び舌でなぞっては熱く吐息する十四。昨夜もベッドの中で聞いた、覚えのある響きにぎょっとした。嘘だろう、どこでスイッチが入ったんだ。
「おい、十四、待て、ステイ」
「……?……獄さん、自分……」
「こんな暑さン中で盛ったら余計頭がバカになるぞ!」
とろんと据わった眼の十四に迫られ少々慌てつつ、まるで飼い主気分で『待て』を繰り返していると、メイクで武装していない幼い顔が、こてんと俺の胸の上に落ちてきた。
シャツ1枚で隔てられた肌は熱い。ああ本当にまずい。このままでは二人揃って熱中症になりかねない、せめて風呂場に…。
「………アイスが食べたいっす……」
「……は?」
か細く聞こえた声から色っぽい気配は消え、砂漠で水を求めるが如く切実な要望が聞こえる。
薄らと上気した肌、浅い呼吸、渇きかけた汗、……あ脱水だこれ。
待ってろ、と慌てて冷蔵庫へと水を取りに行く道すがら、自分の恥ずかしい勘違いに後頭部を掻き乱す。
朝っぱらからなんだ、どうした俺は。
好きだなんだと日毎夜毎宣う十四に随分と絆され、慣らされた心と身体を嘆きつつ、ペットボトルを取り出した後の冷蔵庫の扉を、居た堪れなさに任せ乱暴に閉じた。
そのまま踵を返そうとして、『バカ』だの『盛るな』だのと罵ってしまった自分の言葉がふと過り足が止まる。
未成年どもに買い溜めさせられたコンビニアイスがぎっしりと詰まった冷凍庫を開け、それを手に取りかけて一瞬指を迷わせる。結局独りよがりの贖罪の意味も込めて、ご褒美的な高級アイスを一つ手に、十四の待つ寝室へと戻った。


なんだか今日は、ほんの少しだけ獄さんが優しい。




 

作者・・・寸胴

いつもと変えたところ、意識したところなど(自由回答)・・・改行の仕方ぐらいで、ほとんど変えていません。漢字とかの使い方の違いがもしあったら、ただの表記ゆれです、すみません。

今回の作品のお気に入りポイント(自由回答)・・・普段とは違う気が抜けている寝起きや朝などを妄想するのが好きなので、お話にしましたが、参考作品も朝のお話だったことに後で気づきました。

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