【B-6】蜃気楼の恋
使用したお題(複数選択可)・・・日焼け, あつい
いつもと文体、話の雰囲気などを・・・どちらとも言えない・秘密
一言コメント・・・まだ付き合っていない、両片思い(多分!?)のじゅしひとです。
備考(作品の注意事項など)・・・なし
カランカラン、と軽やかな音とともにひんやりとした空気に包まれる。店は指示した当人の好みらしい、シックで落ち着いた雰囲気。年季の入ったヴィンテージウッドの壁は色が濃く、喫煙OKのこの店にうってつけなのかもしれない。
「ひとやさん」
空気にのまれて十四の声は自然と小さくなった。いつものような大仰な素振りはこの場に相応しくないと思ったからだ。
「おう。…お前はどこにいても目立つなぁ」
顔を上げた獄は目が合ったあと、人好きのする顔で笑った。せっかく声を潜めたのに!
「そうすか?今日はデートだから、獄さんに合わせてモノトーンで来たんすよ!」
「おっまえ、デートとか言うな。図体デカくて派手な顔面はどんな服装でも目立つんだよ」
そう呟く本人も、組んだ長い足を持て余してテーブルの横に投げ出していた。
「も〜、ビジュアルが完璧すぎるって褒めてもいいんすよ!素直じゃないんすから」
「はっ」
残り少ないコーヒーを飲み干して獄は笑った。見当違いなこのやり取りを獄が存外気に入っているのを、十四は何となくわかっている。
「店ん中冷えるな。そろそろ出るか」
今日は十四が前から見たいと言っていた映画を見に行く約束だった。会計を済ませた獄は、普段晒すことのないボーリングシャツの下の二の腕をさする。
「半袖獄さん見たら夏だな〜って感じっすね」
「人で四季を感じてんじゃねぇよ。焼けそうだな〜今日は…」
喫茶店の軒先で、ギラギラと降り注ぐ太陽を睨みながらウンザリしたように獄は言った。
獄は、真夏でも仕事中は長袖を着ている。クールビズとかいう世間の風潮など気にも留めず、ナゴヤの猛暑でもキッチリ長袖シャツにライダースだ。
曰く「半袖、なんか間抜けじゃねぇか。威厳がなくなる」らしいのだが、所長がそうなので部下たちも半袖を着づらくなっているのを、十四は少し心配している。夏はたまに、受付のお姉さんの愚痴に付き合ってあげているほど。
去年の夏、獄の腕時計焼けがあまりにもくっきりと美しく残っていて空却が大笑いしながら揶揄っていた。休日に寺に集まったその日、獄は私服のポロシャツを着ていて「首もすげえぞ、ほら」と襟元をくいとまくって見せた。
そのとき見た、真っ白く覗く鎖骨に釘付けになったのを十四はふと思い出した。今日、一日炎天下を歩いたら半袖焼けするかしら。またあのときみたいに、肩から二の腕にかけてが真っ白になるのかな。指摘したら、たぶん獄はそれをくい、と袖を捲って見せてくれるだろう。でも、でも、本当はその体を、何も纏わない状態で真正面から見てみたい。
それが叶う関係性ではない。今はまだ、ね。
軒先でそんなことを考えていると、自然と口元が笑っていた。獄が怪訝な顔をする。
「なにアホみたいな顔してんだ」
「ねぇ獄さん。やっぱり映画はやめて、今日はブラブラお散歩しましょ!」
「はぁ?このクソ暑い中?」
十四の気分でころころ変わるプランに毎度律儀にリアクションする獄は、やっぱり、こういうのが嫌いじゃない。
そう、嫌いじゃない。満更でもないのだ。その事実が、十四を喜ばせるのを獄だけが知らない。
十四の心は、いつか来る(と信じている)真正面から見る獄の素肌を思い浮かべて、既に上機嫌だ。獄といる夏を繰り返すたび膨らんでいったこの気持ちが、また今年の暑さとともにボルテージをあげていく。いつ?まだ?いやでもそろそろ。
十四は嫌そうな獄の手を掴み、蜃気楼に駆け出していった。
作者・・・おしゅう
いつもと変えたところ、意識したところなど(自由回答)・・・小説を書くのはほぼ初めてです…!いつも字書き様の素敵な作品に助けられています…。これは普段描いている漫画と共通かもしれませんが、どこかそわそわするような読後感にしたいと思いました…多分できてない…
今回の作品のお気に入りポイント(自由回答)・・・え…!!わかんないです…万が一あったらこっそり教えてください…