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【D-5】ぜんぶ夏のせい


子どもの発想は自由で、突飛で、とりとめない。入道雲は美味しそうで、絵本と会話ができて、月に手を伸ばす。
子ども……という年齢ではないが、獄は十四にも多少そういった一面を見ているので、彼がクーラーのきいたリビングでアイス片手にぼぅっと固まった時も、とくに驚きもせず放っておいた。

「アイス……」
「おう。アイスだな。お前がどうしてもこれが食いてぇって、コンビニ回ってようやく見つけた」
「『アイス』と『愛す』を踏んでたの、カッコよかった、っすね」
「……あぁ」
黙ったと思ったら、過日のバトルを思い返していたらしい。
確かに、十四と対峙したシンジュクの二番手が血を吐くようなフロウで発していた。煌びやかで豪奢なナンバーワンホストの発する『愛す』は、彼が毎晩与え、そして埋もれているのであろう幾多の『愛』が背景となり、重く自チームに圧しかかったのを覚えている。
「カッコよかったなぁ。
 自分は愛を、知らないつもりはないっすけど、」
ここで十四はちらりと獄を見た。気まずくて、今度は獄が視線をアイスへ移す。
「あの場で、あの人数を前に、己の武器として愛を語れるかなぁ。
 あっ、誤解しないでくださいね、自分は自分の愛に、自信も信念もあるっすよ! ……あぁでもだからこそ、それを、こんなに一瞬で溶けて無くなっちゃうものと、並べて踏めるかなぁ」
「……べつに」
つ、と十四の手元のアイスが汗をかく。
思わず彼の手首をつかんで己の口元に寄せた。滴が十四の手首を伝う前に、舌先で迎えて、舐め上げる。果汁70%で美味しいのだと十四が探し回ったアイスは確かに、みずみずしく美味い。

「べつに、お前はお前らしい、十四にしか綴れないリリックを書けば、いいだろ」
「………」
「自分の人生乗せた言葉にしか、真実味は宿らねぇ。
 俺が空却みたいな仏教用語使ったって上滑りするし、誰かが俺みたいな法律用語綴ったって、絶対に俺の方が強い。そうだろ?」

だから落ち込むなよ、と慰めるつもりで隣の顔を覗き込めば、ひどく熱の篭った双眸。
頬まで火照って、どうしたんだ……戸惑っているうちに、ふぃと首を伸ばした十四に、唇を囚われた。

「……ぁ。つい」
へら、と眉尻を下げて笑っても尚、整った容貌に腹が立った。ぐいと口元を拭って、照れ隠しにしかめっ面で睨みつける。
「つい、で人の唇奪ってんじゃねぇよ。落ち込んでんのかと心配すりゃお前」
「だってぇ。ひとやさん、アイス舐めるから」
「落ちそうだったんだよ! 俺の家のラグに!」
「分かってるっすけど! でもっ、頭が、ひとやさんで一杯になっちゃったんすもん……!」
まったく、子どもの成長は突飛で、自由で、目まぐるしい。戦う男の顔を見せたと思えば一転、耳を垂らしてクゥンと鳴く。
強くなりたくて、己に足りないものが歯痒くて、そして好きな相手の媚態に弱い。
「……バカガキめ」
獄は手を伸ばした。ぐいと小さな頭を抱き寄せ、耳元に唇を寄せて、囁く。

「酒も飲めねぇガキに教えてやるがな。
 GIGOLOが使った単語は『アイスショット』、キンッキンに冷やした酒をストレートで、ショットグラスで一気に煽る酒の飲み方だ」
お前の言う『アイスクリーム』とは別モンだよ。
取っておきの声を流し込み、仕上げにちゅっと耳殻をねぶる。未熟ながらも月の名を背負う男を酔わせるのは、アイスショットなどではなく俺だ、という自負を持って。
……必要なの俺だろ?
挑発すればギラギラと獲物を捕らえる目で見据えられ、幸福に腹の底が疼き出す。

さぁ子どもとは出来ないことでもしようか。



 

使用したお題(複数選択可)・・・アイス, あつい

いつもと文体、話の雰囲気などを・・・少し変えている

一言コメント・・・バトル後のふとした日常です。楽しんで頂けたら嬉しいです。

備考(作品の注意事項など)・・・公式曲リリック一部とキス描写があります

作者・・・shiro

いつもと変えたところ、意識したところなど(自由回答)・・・「文体を硬めに、一文を長めに、句点を好きなだけ使う」つもりで書きました!Twitterに上げる時は「柔らかめ、短め、リズム重視」で書いているので少し違ってたらいいな~

今回の作品のお気に入りポイント(自由回答)・・・お題「あつい」の処理。「あ、つい……」で14くんが18さんの唇を奪っちゃうシーンが一番に浮かんだので書けてよかったです。

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