【C-1】甘酸っぱい恋の味
使用したお題(複数選択可)・・・アイス, あつい
いつもと文体、話の雰囲気などを・・・大きく変えている
一言コメント・・・十四くんが獄さんへの恋を自覚し始める甘くてあつい瞬間を書きました!
備考(作品の注意事項など)・・・なし
「…美味いか。」
「はい!すっごくおいしいっす!!」
自分が食い気味で返事をしたら獄さんはぴくっと一瞬だけ唇を曲げて笑った。なんかこういう笑い方って悪役みたいでかっこいい。
「ま、そんなカオするくらいだもんな。」
「え?どんな顔っすか?」
「鏡見てみろ。」
獄さんの言う通りポッケから手鏡を取り出して見てみると自分はすごくニコニコしてた。じんわりと舌の上でとろけるミルク感とイチゴの甘酸っぱい感じがとっても幸せでついつい笑顔になっちゃってたみたい。
「そんなんでよく14th moon様が務まるよ。感心しちまうぜ。」
「いじわるな言い方しないでくださいっす!」
肩をすくめて首を振るなんて大袈裟なリアクション、普段はやらないくせに。変なところで大人げないんだから。
だって仕方ないじゃないっすか。クーラーの効いたお部屋の中で高そうなアイスを食べるなんてめっちゃ贅沢させてもらってるんだし!
来るなって何度も言われてるけれど「天国法律事務所」と見るとどうしても足がそっちに行っちゃう。受付のお兄さんお姉さんは絶対中に入れてくれるし、獄さんだってなんだかんだ言って追い返すことはしないから別にいいかなって。だから今日もいつもと同じようにお邪魔させてもらった。
「これ食って待ってろ。」
と、自分を見るなり舌打ちしてすぐ部屋の外に行った獄さんがこのアイスを持ってきてくれたのだ。牛と牧場っぽい背景が描かれてるピンクのフタに一番大きく書かれてる商品名は見たことないものだった。一度地下から出ればナゴヤは灼熱地獄だから、ちっちゃいアイスは天の恵みみたいな物だった。
「やったあ!!ありがとうございます!!…見たことないアイスっす。どこで買ったんすか?」
「貰い物だから詳しいことは俺も知らん。三年前くらいに相談を受けた方なんだが、毎年色々と送ってきてくださる。北の方のご出身だって聞いたことがあっから地元で有名なんじゃねえか。」
「ホッカイドウの方ですか!向こうは今も涼しいのかなぁ。」
「俺も聞いたことがある。ナゴヤほどじゃねえがかなり暑いそうだ。」
「暑くて寒くて大変なんすねぇ。」
袋に入った木のスプーンと一緒にアイスをありがたく受け取って手を合わせた。
「獄さんはもう食べたんすか?」
「いや。」
「一口どうっすか?」
「んー…あー…じゃあ貰う。」
眉間に深いシワを作ってキーボードを叩いているところに声をかけると獄さんは少し考えてから頷いた。
意外とこういうのが平気な人なのだ。空却さんと自分がよく分けっこをしてるから、それに合わせてくれてるだけかもしれないけど。あげるのも貰うのも大丈夫みたい。
「ほんとにおいしいですよ!ちょっと待ってくださいね。」
自分はお客さん用のソファーから立ち上がった。自分を待つ獄さんは大きく伸びをしてからあくびをしていた。なんかすごく疲れてそう。
「……ん。」
「へっ?あっ、はいっ、どうぞ!」
アイスのカップを渡すつもりだったから、自分を見て口を開けた獄さんの動きにフリーズしてしまった。これって…
「あーん…」
ってことでいいんすよね!?微妙に震える手でスプーンを獄さんの口元まで持っていく。獄さんみたいな大人に、自分が、食べさせてる…空却さんやバンドの人たちにもやったことあるのに、今だけはすごくドキドキしてる。
歯並びキレイだなぁ。タバコ吸ってるのに白いからホワイトニングとか通ってるのかも。あ、普段よりヒゲ短い?剃ったばっかりなのかな。ネクタイは基本的に少し緩めで着けてるけど今は部屋で一人きりの作業だったからかもっと緩くて首もとが見える。変なとこばっかり目が行っちゃう。
「ん、美味いな。」
「で、でしょ!?」
獄さんは口をむぐむぐと動かしたあと満足そうに頷いた。自分のことからかえないような柔らかい笑顔をしてる。獄さん、笑うと垂れ目が強調されるんだよなぁ。眉間にあったシワもキレイに無くなってる。
なんか、かわいい…?
「はあ…。一回休んだら集中が切れた。せっかくだししっかり休憩すっかな。」
「そ、そうっすね!根詰めちゃうのは良くないっす!」
「アイス、他の味もあるらしいから持ってくる。お前も一口食え。」
「あ、りが、とうございます、っす!!」
獄さんが座ってたオフィスチェアーが立てた小さな軋みのおかげで夢を見てるみたいなふわふわした感じから戻って来られた。でも胸はずーっとドキドキしてる。ドアが閉まって背中が消えてやっと、いつの間にか忘れてた呼吸を再開した。
クーラーのよく効いた部屋で冷たいものを食べてるのにこんなに顔が熱いなんて信じられない。
「ヤバいっす……何だろこの感じ………」
手の平に乗ったままのカップの中でどんどん溶けていくアイスを飲み物みたいに流し込む。ぬるくなったとろとろのイチゴ味はすごく甘い。
作者・・・芥場
いつもと変えたところ、意識したところなど(自由回答)・・・話の内容や雰囲気は自分がいつも書くものより明るめになるよう意識しました。あと十四がかわいくなるように頑張りました。
大きく変えようとしたのは、一言で言うと「文章のテンポ」です。句読点(主に読点)の打ち方を変えたり、「」と地の文の量を変えたり、途中で挟む風景や動作の説明を減らしたりしました。
自分がいつも書く文章で特徴があると思う「時間の流れの遅さ」を削ろうと思ってのことです。
あとは三点リーダーの使い方や「!」「?」の後の一字空けをしないなど、いつもやってる癖をやめました。
終わり方に関してはいい方法が思いつかなかったので手癖で書きました。
こんだけ変えててバレたら恥ずかし〜〜〜
今回の作品のお気に入りポイント(自由回答)・・・十四がアイスを食べさせるときの獄の表現です。
前述の通り自分の特徴を削るために動作などの描写を減らしていたので、ここはかなり気持ちよく手癖を出しました。本当はもっと書けるのですがこれでも抑えています。