【B-2】あつくてあまい
使用したお題(複数選択可)・・・アイス, 日焼け, あつい
いつもと文体、話の雰囲気などを・・・どちらとも言えない・秘密
一言コメント・・・なし
備考(作品の注意事項など)・・・なし
「ひとやさーん!聞いてくださいよお!」
大きな声とともに勢いよくドアが開いた。もはや日常茶飯事、声の主は見なくても分かる。
「十四、いちいち事務所に来んなって言ってんだろうが」
「あっ、すっごい涼しいっスねこの部屋!もう外歩いてたら暑くて暑くて」
「話聞けって……」
手で顔をあおぎながら入ってきた十四が、当たり前のように応接セットに陣取る。これもまた日常。
「空却さんひどいんスよ!こんな暑いのに昨日はお寺の外掃除ぜんぶ自分に押し付けちゃって!」
「分かった分かった。後でコーヒー淹れるから、話はその時にな」
「あ、じゃあおやつ食べましょうよ!自分なんか甘いの買って来るっスよ」
訪ねてくるなり次から次へと話を続け、それに合わせて頬を膨らませたり嬉しそうに笑ったり、ころころ表情を変える。仕事場に来るなとは言ってあるが、十四が来てこの部屋がぱっと明るくなる様子は嫌いではない。こいつに引っ張られて、俺まで気持ちが緩むみたいだから。いいだろう、俺もここらで休憩だ。
「ならひとつ頼むわ。一階のコンビニでアイス買ってきてくれるか。そうだな……ダッツ、お前の分もな。味はお前の好きなやつでいいや」
「ひゃー、豪華!」
「真面目に労働してんだ。それくらいいいだろ」
ガキみたいに千円握りしめて飛び出していった十四は、すぐに満面の笑みで戻ってきた。コンビニの小さな袋を大事そうに両手で握って。
「おうお帰り。悪かったな」
「買ってきましたよー。マンゴーのやつとキャラメルのやつ、どっちにします?」
「俺こっち」
差し出された二つのカップからマンゴーのイラストの方を受け取る。アイスの冷たさが汗ばんだ手に心地よかった。
熱いコーヒーはやめにして、応接セットに並んで腰かける。アイスの表面をうっすら覆う霜が涼しげだ。
ふと、十四が俺の顔を見つめて首をかしげた。
「あれ、なんか獄さん、日に焼けました?」
「そうか?お、ほんとだ。ここ色変わってら」
まじまじと自分の両手を眺めると肌色の境界を見つけた。腕時計の形に手首が焼け残っているのだ。時計を外して十四に示すと、鼻息荒く手首を掴まれた。
「えええ……すごいえっち……」
「何がだよ」
「全部っスよ!」
一回り以上も上の男に向かってかわいいだのエッチだの、こいつの俺に対する評価はどうにも分からない。獄さんはもっと自分の魅力に慎重になった方がいいっス!などとぶつぶつ言ってるこいつの性癖、俺が歪ませてるのか?
「落ち着け、アイス溶けるぞ」
俺の言葉に慌ててスプーンを口に運んだ十四が感嘆の声をあげる。
「キャラメル味すっごいおいしいです!獄さんのは?」
「こっちもうめえ」
「いいなあ、そっちもちょっと味見したいっス」
「あ?一口だぞ、ほら」
スプーンですくえるように十四に向けてカップを傾けてやったが、それが受け取られることはなかった。代わりに食われたのは唇だ。吸い付いて、入り込んで動きまわって舐めとって、離れていく。空になった口の中に、わずかにキャラメルの風味が残った。
「ごちそうさまです……」
神妙な顔をしているが、満足気なニヤけ笑いが漏れている。『味見』って、エロ親父みたいな発想しやがって。噴き出しそうなのをこらえて、精いっぱい厳格な声を出して睨んでみる。
「おい十四、俺こないだお前になんつったっけ?」
「……事務所でキスとかそういうの、絶対だめって……」
「この、バカガキ!ここ仕事場、俺は仕事中!次やったら俺マジでぶん殴るからな!」
「獄さんが日焼けしてセクシーになってるのが悪いです!」
「知らん!」
ぎゃあぎゃあと喚く十四を放って残りのアイスをカップからかき込む。……やはりこいつの性癖は、俺が責任をもってどうにかすべきなのかもしれない。
「まあ、キャラメル味も旨かったけど」
そう呟いた俺の顔が熱く火照っていたのを、ぬるんだアイスだけが見ていた。
作者・・・霧島
いつもと変えたところ、意識したところなど(自由回答)・・・自分の書くものの特徴って自分ではなかなか分からないので、とにかく思うまま書いてみました。参加させていただきありがとうございます!