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【A-3】送り火

使用したお題(複数選択可)・・・アイス, あつい

いつもと文体、話の雰囲気などを・・・ほとんど変えていない

一言コメント・・・楽しく好き勝手に書いてしまったので、特に意識して変えれませんでした!(笑)。今回1番ひねくれたお題のとり方をしているのではないでしょうか……テーマとしてではなく、所々に少し散りばめたような形にさせていただきました!これでわかりにくいはず!お楽しみ頂けますと幸いです。企画に参加させて頂きありがとうございました!

備考(作品の注意事項など)・・・獄さんのお兄さんが出ます。一人称は個人設定です。

「悪い、お前の気持ちには答えられない」 
事務所にはいってきたときは、耳障りなほど蝉の声がしていたのに、もう今は聞こえない。
何、いったんだっけ、自分。
ひとやさんが好きなんです、お付き合いをしたい、って感情で、好きなんです。っていった気がする。

なんだか、夢をみているような感覚。でも、これは現実。
脳みそが前後に揺らされているような、そんな感覚。
告白が玉砕した時のスマートな対処方法なんて、この十八年じゃ経験していない。

ひとやさんの事務所のブラインドから細く西日がひとやさんを指す。
天国事務所の代表席に座るひとやさんはいたって冷静。

「ひとやさ、」

なんだか悲しくなって、机の上に置いてあるハイライトに手を伸ばすひとやさんの手首に、触れる。どうしても、あなたの動揺が、みたくて。

パン!
と、手が払いのけられる音。

ひとやさん、と顔をあげると、目尻を険しく吊り上げた、ひとやさんの静かな、怒り。
きゅ、とのどが閉まる。そして、動揺が見たいと、軽率すぎた自分の行動に一瞬で後悔した。
相手の感情を揺さぶりたいなんて、ましては力技で揺さぶろうとするなんて。
そんなの、自分が一番されて嫌な行為だ。それを、自分は、目の前にいる好きな人に向かって、振りかざそうとして。

最低だ。

ごめんなさい、と叫んで、事務所を走り去る。 ぼろぼろと、みっともなく涙が止まらない。
背後からひとやさんが呼び止める声がしたけど、合わせる顔がなくて、そのまま走り去った。

事務所から二つ、信号を渡って、ひとやさんから着信だけが入ってて。
心配かけちゃったよなあ、怒らせたのは自分なのに。

メッセージで、謝罪と、心配しないでください、という旨だけ送信して、もう一度声をあげて泣いた。






「拙僧がくっそ忙しい時にぴえぴえしてんじゃねぇぞこの野郎!」

師匠の恫喝が、刺さる。思わず、通話中にも関わらずスマホを耳から放してしまった。
あれから一週間。世間はお盆に入った。
お盆休みの間、一度もひとやさんには会っていない。

一度…空却さんが忙しくなるお盆前。喫茶店で会議という名前のお茶会があったけれど、ひとやさんとはろくに会話ができなかった。
ひとやさんは無言でコーヒーを啜っている。

空却さんはそれを見て不服そうな顔をしていたけれど、空却さん、無断でお寺を抜け出していたみたいで、ひとやさんに灼空さんから連絡がきたらしい。あっけなく獄さんによって場所をもらされた空却さんは、飛んできた灼空さんに回収されていった。

ふたりきり、少しの沈黙の後。
ひとやさんは
『盆の前に片付けてえ業務がある、』と言って席を立ってしまった。
ひとやさんが座っていた席に置き去りにされたもう湯気は立っていないコーヒー。
ほとんど、量は減っていなかった。




連絡を取らない時間が、どんどん自分を冷静にさせていく。
ひとやさんはきっと、自分のことが好きだ。
自分が、ひとやさんのことが好きみたいに。
普段、あなたのことをこんなに見つめている自分が言うんだもん。きっと、そう。

でも、いっぽうよがりな気持ちの伝え方だったかもしれない。
ひとやさんの気持ち、ひとやさんの、考え。余裕がなくて、考えられなかった。

ひとやさん、今あなたは何を考えているんだろう…








「おい、十四!聞いてんのか!?」
 
「ひゃ、ひゃいっす!!!」 


電話口から空却さんの大きな声。
そうだ、空却さんと電話中だった。
『お前もひとやも様子がおかしい、何があった』と問いただされ、
告白してふられたから気まずいです、とはいえず。
自分が原因でひとやさんを怒らせました、とだけ言ったら…少し前の、恫喝である。


「今から寺、こい。」

「空却さん、お盆だし忙しいんじゃ」

「バァカ、もう盆最終日だっての。その盆でなまりきった根性、叩き直してやるよ!」

「横暴っす!」

「なんか言ったかあ?」

「いいえ何もないっ゛ず」

かなり横暴な師匠は、こういうと曲がらない。
自室のエアコンを切って、太陽が落ちる方角にある空厳寺へと向かう。







「十四…」

「なんで、ひとやさんがここに…」

空厳寺の大きい門をくぐると、お寺の入り口に空却さんと、その少し手前にひとやさん。
自分の顔を見るや否や、す、と視線を外してしまった。
その様子を見た空却さんが呆れた、と顔に書きながらため息をひとつついて、自身の首に手を添えて、回した。


「おい!てめえらのそのナヨナヨ根性、叩き直してやるよ!」

途端。ギン、
と空却さんのマイクが鳴る。
あとはもう、コンマの記憶。
空却さんの唇がリリックを吐き出して、
ひとやさんが自分の目の前で膝から崩れ落ちた。
ひとやさん、と叫ぶ前に空却さんの背後の竜が自分の体に巻きつく。
どしゃ、と音がして、重くなっていく瞼に見えたのは、自分の体の下にあるお寺の砂利、1バース吐いてマイクの電源を切った空却さんと、うつ伏せのひとやさん。


ひとやさん、いかなくちゃ。
そばに、いなきゃ。
ひとやさん。


ひとや…


『ひとや』

目が開いた。立ってる。さっきまで地面に横になっていたのに。
周囲は、冷たい風が吹いてる。
霧がかかった冬の日のような、空気。

目の前に誰かが立ってる。

ふたり。
ひとりは背丈はひとやさんと同じくらい。あの柔らかいグレーの、ふわふわの髪の毛も一緒。
でも、ひとやさん…じゃない。

ひとりは小学生?つんつんとはねる短髪の髪の毛と、白いスポーツバック。野球のユニフォームは膝から下が泥だらけで、いかにもスポーツ少年、だ。


『今日の試合、すごかったぞ』

『ほんと?じゃあ、アイスかってよ!ご褒美!』

『おいおい、現金なやつだな…まあいいよ、これで買っておいで』

あ、あの皮のお財布の銀色、見たことがある。どこだっけ。
あれ?でも、お財布だったっけ、自分が見たやつって。

『やっりぃ!にいさんは何かくう?』

『いいや、僕はいいよ…それより母さんたちには買い食いしたこと、内緒だぞ』

『わかってるって!』


少年を見送った後で、にいさん、と呼ばれていた男の人が振り返った。

『…はじめまして、十四くん』

ああ、そっくりだ。
初めてひとやさんに写真を見せてもらった時と同じ感想。
ひとやさんと違って、垂れ気味の眉。泣きぼくろはないけれど、左頬にほくろがひとつ。


「……お兄、さん、なんですか」

『うん、僕が天だよ。』

「なんで、自分の前に…来てくれたんですか…ひとやさんの、とこに」

お兄さんは、困ったなあ、というように頬をゆるく指でかいた。

『ひとやのところには、別の人が行ってるみたいだから。それに、十四くん、君に僕が会いたくてね』

目の前に、大切な人の、たいせつなひとが、いる。
理解が追いつかない。でも、これは月に旅行に行った時のように、夢なのかもしれない。
現に最後、自分は空却さんのリリックを受けて、倒れている。

自分の動揺は無視して、お兄さんは続ける。

『ひとやは、今も、縛られている。たくさんのものに。』
『ひとやは、それを振り解くことは望んでいないみたいだ。』

『それでも、十四くんは、ひとやと一緒にいることを望むのかな?』

淡々と、お兄さんは、話す。
霧が、お兄さんを包んで、いつの間にかお兄さんの顔が見れない。

『にいさん?』

背後から、知った声より高い、不安そうな、泣き出しそうな、声。


「どこに、行った、兄さん」

「ひとやさん…!」

あの少年は、霧に包まれて、大人になっていた。
でも、まだ、ひとやさんは、
時が止まったままなんだ。

考えるより、早く、ひとやさんを抱きしめる。

「ひとやさん」

「兄さん」

自分の腕の中で、ひとやさんが泣いているのがわかる。

「ひとやさん、自分…ひとやさんを…救えない、でもひとやさんを、ひとやさんが、好きだから、ここにいることはできるから、ひとやさんがいやって言っても、ひとやさんが嫌いって言っても、どうしても好きなんです、隣にいたいよ、」


「じゅ、うし」
「ひとやさんが好きなんです、だいすきなんです」




『十四くん、ひとやはああ見えて誰よりも怖がりやさんなんだよ。隣に、いてあげてね』















「…!!!」

「よお、起きたか」

気がついたら、砂利の上…ではなく、畳の上。
がら、と襖が開いて、お茶とタオルをもった空却さんと、目が合う。

「空却さん…」
「なんか、見たのか」
「ひとやさんの、お兄さんの、夢を」

「そーか……今日は盆の最終日だ。仏さんは今日あの世に帰るんだよ」

空却さんが続ける。

「ひとやのにーちゃんも、お前らがしょーもねえことでナヨナヨしてっから心配してお前のとこに寄り道したんじゃねーの」

「空却さんがマイクで攻撃したのって…」

「拙僧は知らねー。ただてめえらの根性を叩きたかっただけだ」

「あとはそこの伸びてるクソ弁護士とゆっくり話し合えよ」

空却さんの視線の先には、シャツ姿の、横に倒れているひとやさん。
慌てて駆け寄って確かめる。よかった、寝てるだけみたい。
空却さんが襖を閉めて、部屋から出ていく音がした。

ひとやさんの頬に手を添える。ひとやさん、暖かい。
起きたら何から話そう。

ひとやさん、いっぱい自分、謝らなきゃ。
ひとやさん、いっぱいいっぱい好きって伝えなきゃ。
ひとやさんが何を思っていても、何かに怖がっていても。
自分はここにいますよ、って。隣にいますよって。


「ん…」
「ひとやさん!」
「じゅう、し」

ひとやさんと、目が合う。
ひとやさんの、ごつごつして温かい指が、自分の溢れている涙をぬぐった。

「お前、何、泣いてんだよ」

「だって、だって、ひとやさん…!!」

ふ、とひとやさんが鼻で笑って、微笑んだ。
「お前、手も涙も熱すぎるわ」


 

作者・・・白屋 景

いつもと変えたところ、意識したところなど(自由回答)・・・描写や改行、句読点で表現するところはあまり変えていないです!わかる人にはわかっちゃったかな…
唯一変えたところは台詞にあえて「゛」を入れることはあまりないので、そこだけかな…!?
獄さんが十四くんを想うがあまり振っちゃう話ってずっと書きたかったけれど書いてないな?と思って、あえて書いていないシチュエーションをチョイスさせて頂きました!!!

今回の作品のお気に入りポイント(自由回答)・・・獄さんも色々実は悶々と1人でかんがえてます。
その描写を所々散りばめた所がお気に入りですね!!!!

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